2002年2月 春節

 

 

1日(金)

 

 TORAさんから、先週提出したビデオクリップだと分数が足りないらしい、と言われる。どうしよう、ほとんどのライブ同録ビデオは東京のCHIMO宅に置いてあるのだ。今、スーパー多忙な彼女に「探して送ってくれ。」とは言えない状況・・。誰か誰か・・そうだ、EMIちゃん。彼女は、私が歌っているライブのビデオを持っている。即、その場でEMI氏携帯にメール。とにかく25分以上、私が歌っている画面があればいいからダビングしてEMSで送ってくれ~!とお願いする。漢字が苦手な彼女に、中国簡体字で書いた事務所の住所をFAX。ホントにごめん~。その他に、私のオリジナルの中から20曲のタイトル(日本語、英語、中国語)と、日本での履歴書を提出するよう要請される。エンタテインメントビザ、なかなか遠い。

 

 

6日(水)

 

 ヤマト引越便上海支部からARK事務所にTELが入る。私の荷物が本日上海に到着したとの事。しかし、荷物を受け取るにはエンタテインメントビザ、そしてそれを取得して初めて申請できる居留証が必要である。・・・・しばらく受け取れない・・。

 

 

7日(木)

 

 EMIからEMS到着。綺麗に書かれた簡体字の宛先!EMIちゃん有難う!即効、TORAさんが、届いたビデオと20曲のタイトル、英訳された私の履歴書とを持って、文化局に提出しに行く。2月8日(金):上海のステージで、長期に渡って活動する外国人が必ず加入しなければならない“歌星倶楽部”との契約書にサインする。日本人としては、坂上が初めてである。

 

 

11日(月)

 

 今日は中国での“大晦日”である。もう夕方から爆竹が鳴っている。TORAさんが、MARIさん、PAのXINさん、そして私、3人の“日本人”を自宅のお食事に誘ってくれた。夕方5時半くらいにお邪魔して、TORAさん自ら作ってくれたお料理も堪能。美味しい手料理をお腹いっぱい、お酒も結構頂いたが、8時にはTORAさんと私達はARKに戻らなければならない。うちらはいいが、TORAさんはほとんど休み無しで、大晦日までこんな状態。本当に多忙だ。ARKに戻ると、NINさんはチャイナ服で正装していた。爆竹と花火がもうとどまることなく鳴り続けている。ようやく“春節なんだ・・”という実感が湧いてきた。カウントダウンの時にはもう“爆発”に近いような打ち上げ花火と爆竹。WANさん、MARIさんと共に、新天地の大池付近に行ってみた。空は花火と眠らないビル群のネオンで白夜のように真っ白・・。打ち上げ花火は、素人が、あの大玉にバンバン点火してると聞いて、MARIさんと私は驚いた。「爆竹屋で買うのよ。」と、WANさん。一つ幾らくらいするんだか。しかも今夜中引っ切り無しに打ち上げるのである。ともあれ、初めて迎える春節は、想像以上に感動的であった・・。

 

 

12日(火)

 

 春節(旧正月)。もうもうずっと爆竹が鳴りっぱなし。だんだん耳慣れてきて、睡眠を妨げられることもなかったのは我ながら意外だった。ARKはもちろん今日も営業。夜、顔を出したらみんな新年の挨拶をしている。真似をして「新年好!」と言いながら、自分の右手と左手を合わせて“グー”を作り、軽く振る挨拶のポーズをそこここでやった。

 

 

19日(火)

 

 上海に来てから、歌の練習が思う存分出来るようになった。東京のアパートでは、壁の薄さが気になって、部屋で声を出すことは阻まれた。上海でも、もちろん音は漏れるのだが、お隣さんもすんごいボリュームでテレビを観てるので、夜中でも気にせず歌っている。また、朝、バスに乗るときなどは路上で軽く発声練習くらいしても、そんなにみんな驚かない。しかし、上海に来てちょうど一ヶ月。やはり“歌ってない”という鬱憤がたまり始めている。やいやい言う私をMARIさんとLINさんが日本語の曲がいっぱいあるKTV(カラオケ)に連れて行ってくれた。「これも仕事でしょ。」と、予約を取ってまだ4時なのに事務所から連れ出してくれた。LINさんは、TORAさんの妹さんで、同じく日本語がペラペラ。来上する海外アーティスト担当のエージェント会社に勤めている。連れて行かれたKTVは、“BIG ECHO”。日本語が多いはずである。もう、ガンガン歌った!

 

22日(金)

 

 TORAさんから、私の初リハは2月28日に決定と聞く。私は、新天地ARKの看板バンド“ARK ALL STARS”のヴォーカルとして、初ライブのステージを踏む。メンバーにはまだ一度も会った事がない。うう~、どんな人達なのだろう・・。もちろん全員中国人のミュージシャンだ。想像つきそうでつかないわ。ともかく、選曲をじっくり考える・・。

 

 

24日(日)

 

 山口百恵はやはり未だに偉大。初日のメニューには1曲入れたほうがいいとの事なので、福州路の上海書城に百恵ちゃんのテープを探しに行く。1本購入。いわゆる日本でのヒット曲ではなく、知らない歌ばかりだ・・・。帰りに、書城の近くのラーメン専門店で食事。化粧室に行く際に、バッグはちゃんと持って行ったのだが、上着を席に置いたままにしてしまった。店を出て気づいた。ポケットに入れていた携帯が無い・・・!Uターンして店に探しに行った。服務員は真剣に「探して」くれたが、もちろん見つからず。「あなたの電話番号に今かけてごらん。」と言われ、店からダイヤルしたが、切ってないはずの電源がすでに切られていた。5分と経っていないのに。この店で無くなったのは確かなのだが・・どうしようもない・・・。「謝謝。」と告げて店を後にした。ああ~。やられた。そのままARKに行って、TORAさんやWANさんに状況を話した。「それは、盗られたね。」「今度は首から掛けときなさい。」とのこと。諦めよう~・・。く~、ガックリ。その代わり、素晴らしい出来事があった!ライブの初日が3月14日~16日に決定!!今までの憂鬱気分が吹っ飛んだ。しかしながら当初の初日予定日は4月だった。半月以上も早まったわけで、準備もそれだけ急がなければならない。こうしちゃいられないわっ。

 

 

25日(月)

 

 バンドメンバーとの顔合わせが3日後に迫っている。事務所で候補曲の資料をどんどん作っていく。毎週月曜日は、ARKの幹部会議があって、私も一応参加。上海語のやり取りの嵐でほとんど分からないが、時々、TORAさんとNINさんが訳してくれる。が、おそらく内容の3割くらいだろう(笑)。そういえば、日本人スタッフはほとんど関西人、中国人スタッフはほとんど上海人という構成のARKでは、当然、関西弁と上海語が会話の多くを占めている。標準語をたまにTVなどで聞くと、懐かしい気持ちになる(笑)。会議が終わって、また資料作成していると、ARKの運転手さん、PANさんが側に来た。いつもニコニコ、楽しいおじ様だ。カタコトの中国語で、「昨日、携帯取られた!」と言うと、とても心配して下さって、メモに何か書いて、渡してくれた。内容は、PANさんお薦めの安くて優良な携帯電話の品番だった。更に、今、時間あったら買いに行こう!と誘ってくれて、とりあえず仕事を一段落させ、ARKを抜け出した。上海に来た時にNINさん達と来たショップである。今度はPANさんが汗びっしょりになって値段を叩いてくれた!PANさん、感謝!ああ、しかし持ってきた日本円が無くなっていく~。

 

 

28日(木)

 

 いよいよ初リハの日。1時開始。リハは、開店前のARKのステージで行う。10分前に行った。まだメンバーは揃っていないようだ。一人、一人、ミュージシャンらしき人達が入って来る。TORAさんが現場に来るって言ったのにまだ到着しない。どうしよう。とにかく早く挨拶すべきだろうか。「初次見面」とか言えばよいのだろうか。TORAさん、・・・まだ来ない・・。よしっ。行こう。「私は上海で成功するんだ!」と心に唱えながら(大げさだが本当にそんな気持ちで)メンバーに近づいていった。メンバーが振り返った。ええっと・・と日本語でつぶやいてから「・・・・こんにちわ、日本から来た新しいヴォーカルで、坂上伊織といいます。宜しくお願いいたします。」とカタコト中国語で言った。みんな、もちろん、日本からの歌手が今日リハに来ることは知っている。「ああ、キミか、キミか!よろしくね。(という感じだったと思う)」と笑顔で応えてくれた。ふわ~っと肩の力が抜け、それからは、今日合わせる曲の打ち合わせを始めた。初リハでは、この曲をやりたい・・などの私の希望が、メンバーにキチンと伝わっていなかった事が判明。そこで、今一度、「今回はこれとこれとをやりたいんです。」などと言ってるうちにTORAさんが到着。上海語でメンバーにいろいろ説明してくれている。とにかく、早速、合わせてみよう、ということになった。ARKのステージに初めて立った。さあ、始まるぞ・・。第一曲目、合わせた曲は「ぬくもりだけで」。何も考えずに歌う。問題なく、最後まで通せた。1曲やってしまえば、もういろんなものがほどけた。日本語が分からない彼らの中で、私の曲たちは彼ら専用のタイトルが付いた。「ワンニー、プルンニー」はそのまま中国語訳で『今天、明天』、タイトルの一文字目が漢字の場合は大体その漢字で呼ばれた。例えば『月あかりの神話』は『月(ユエ)』。なぜか「ぬくもりだけで」は『好(ハオ)』となった。リハは、好調に進んだ。私の伝えたい事はTORAさんが訳してくれて、みんなすんなり受け入れてくれる。最中に「シャオジエ」「シャオジエ」と皆がよくいうので、私のこと(中国で女性を呼ぶ時に“小姐”= シャオジエといいます)かと思ったのだが、どうやら違うようだ・・。そうか、小節のことだ。これも発音が「シャオジエ」。一人でウケた。音階表現は日本語でも中国語でも『ドレミファソラシド』。音の話は言葉が不自由な私でも何とか伝えられるというわけだ。ふむふむ。わくわく。感動。バンドメンバーは、リーダーのギター:老卜(lao bu)。ベース:小馬(xiao ma)。ドラム:大頭(da tou)。キーボード:小船(xiao chuan)の4人。

 

上海地下鉄1号線で通勤の図。

 

新天地ARKのエントランス。ここのステージに立つことを夢見て・・・。


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老卜(G.)  小馬(B.)  大頭(Dr.)  小船(Key.) 伊織(Vo.)  藩小姐(Cho.)  QIUCHENG(Per.)